『菊と刀』と日本人とシンプルライフ

シンプルライフ ブログ

菊と刀をなぜ読んだか

何を持っていて、何が不要で、何が必要か。
そういうことを把握してはじめて、シンプルライフが可能になると考えています。
もうブログで何度も言及しているように、「何」というのは物質的なものだけでなく、習慣や思考方法など形のないものも含まれます。含まれるというよりもそっちがメインです。
習慣などの行動を伴うものならば比較的わかりやすいですが、ものの見方、考え方、精神構造といったものは、自分ではなかなかわかりにくいです。
ですので外から診てもらうのが一番だと考えています。

もちろん私個人の精神構造なんていうものを解説した本は存在しませんが、
日本人の精神構造について、外国人が観察した本ならばいくつか存在します。
その中で評価の高い、ベネディクト『菊と刀』を読むことにしました。



『菊と刀』について

『菊と刀』は人類学者ルース・ベネディクトによって書かれた日本人についての研究書です。
戦時中アメリカ軍が行っていた、敵国人についての研究プロジェクトに参加していた著者が、その研究によって得られたものを戦後まとめたものです。
なんでも中国では今でも日本人を知るための書として読まれているようです。

ところどころ間違った記述はあるものの、翻訳者により誤解であることは明記されているので引っかかることはないでしょう。
このような誤解は、人類学者である著者が日本を訪れることなく(戦争中だったので不可能)、日本人の著作や在米日本人や日系人などに取材したことにより日本人の精神を解き明かそうとしたためです。情報が少なかったんですね。
にもかかわらず、日本人ですら無意識にしか感じていなかったことをズバリと言い当てる洞察力は恐ろしいです。

感想

忠孝、恩、義理について深い洞察を示していることは、すでに多くの評者から指摘されていますが、その他の点でもハッとさせられました。
以下がその例です。
・日本人は生身で思い起こせる先祖以外への孝心に価値を置かないし、その意識は現世に集中する。
私自身がそうでした。父方の祖父母は父が結婚する前にすでに他界しており、全く交流が持てなかったので、父方の先祖に対する孝心はほとんどありません。そのことについて、私自身は常々自分の薄情さのようなものを感じていましたが、そのような「薄情さ」は日本人には一般的なものとわかり少しだけ気分が軽くなりました。

・「子供に対する父親の義務」を表現する言葉はなく、そうした義務はすべて両親と、そのまた両親に対する「孝」の中に内包される。
・「日本人は家族を非常に重んじるが、まさにそのために、家族の個々の構成員や、構成員同士の家族の絆は尊重されない」
これについても、私は親にネグレクトや虐待を受けたわけでもなく、きちんと育ててはもらったものの、親から強い愛情のようなものを感じたことはなく、むしろ母親は「私は昔から子供なんかきらいだった」と公言するような人で、私としては親の行動がよくわからなかったのですが、この記述により少しわかったような気もします。(両親が愛情表現下手だった、私の感受性が乏しい、あるいはその両方という可能性もあります。愛情自体はあったと思います。こう書いておかないと「親がひどかった」と誤解されそうなので付言しておきます)

・人間はその仕事と極端なまでに同一視される。そのため、人の行動や能力への批判は自動的にその人個人への非難となってしまうのである。
日本で政治や行政、あるいは会社の非効率な行いの改善が遅れる要因です。
担当者が現役である限り改革ができない(だから改革のペースは20年おきになる。失われた20年もちょうどそのスパン)

・テストで検査された学生は、失敗してはじをかきはすまいかと恐れるあまり、かえってテストで悪い結果を出してしまう傾向があった。
学生のあるあるネタですね。

・幸福の追求こそ人生の本当の目的だという考え方は、日本人には驚嘆すべき不道徳な原則なのだ。幸福はそのゆとりがあるときに耽る気晴らしであって、それを国家や家庭を評価する上での何らかの目安にまで祭り上げるなど彼らには思いもよらないことなのである。
これは結構重要な指摘で、単にいわゆる保守層(戦前からの思考様式を今なお保っている人々)の人権意識が極めて低いことを表しているだけでなく、ミニマリズムなどの幸福追求的思考を披瀝すると生じる批判に通底している意識がここにあるように思えます。

最前述べたように、単に自分の精神構造の一部を理解しようと読んだのですが、結果的には、私より保守的思考の強い周囲のことが理解できたりと、思わぬ収穫もありました。
日本人の多くに潜む「保守」層的な考えがどうなのかを知ることで、どういったときに反発を得やすいのか予測できるようになり、不要な衝突を避けられる(ミニマルにできる)ようになるのではないか、と思えました。

なお、『菊と刀』はたくさんの出版社が翻訳者を変えて出していますが、私が読んだのは平凡社のものです。本文がわかりにくいな、と思ったところにはきちんと注釈がついていてとても親切な本でした。
菊と刀: 日本文化の型 (平凡社ライブラリー)
菊と刀: 日本文化の型 (平凡社ライブラリー)

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